2024.12.15
電子カルテの義務化はいつから?導入手順と補助金を解説
電子カルテの義務化はいつから始まるのか?今のところ導入が義務付けられてはいない電子カルテですが、医療のデジタル化を推進する施策「医療DX令和ビジョン2030」により、将来的にはほぼすべての医療機関で電子カルテの導入が実施されると予想されます。
本記事ではそんな電子カルテの導入について、手順や補助金情報などを解説します。
そもそも政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」とは何なのか?
その目標や取り組み、施策によってどのような効果が期待できるのかなど、わかりやすく解説します。
電子カルテは義務化されるのか?
電子カルテの導入は、2024年11月時点では義務化されていません。
しかし政府は、2030年度を目処にほぼ全ての医療機関で電子カルテの導入を完了させることを目指し、導入の促進に向けた施策を進めています。
義務化の背景と目的
電子カルテを導入することで診療情報が一元化され、医療従事者間で迅速かつ正確な情報共有が可能になります。
また、医療データの分析が可能となり治療の質向上にも貢献します。
これにより従来の紙カルテのデメリットである、情報共有に時間がかかる点や、手作業によるミスや無駄が生じるといった問題点を解消できると考えられています。
医療DX令和ビジョン2030とは
ところで、「医療DX令和ビジョン2030」という言葉は聞いたことがありますか?
これは、2022年5月に自由民主党政務調査会によって提言された施策であり、医療のデジタル化を推進し、医療の質の向上と国民の健康増進を目的としています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データやデジタル技術を用いて、業務プロセスや既存の枠組みを変えていくことです。
近年、様々な分野でDX化が進んでいる中、医療分野においてもデジタル技術を活用した新しい医療体制の構築が求められています。
デジタル技術を活用することで、全ての医療機関で医療情報の共有が可能となり、医療現場の業務効率化や医療従事者の負担軽減、国民の健康増進、医療情報の有効利用ができると考えられています。
施策では医療デジタル化の早期実現に向けて、以下の「3本の柱」を軸とした取り組みが行われています。
《医療DX令和ビジョン2030の主な取り組み》
1.「全国医療情報プラットフォーム」の創設
2.電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)
3.「診療報酬改定DX」
【参考】厚生労働省|医療DXについて
【参考】医療DX令和ビジョン2030
義務化の具体的な時期
「医療DX令和ビジョン2030」では、「遅くとも2030年には、概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」と目標が掲げられています。
2024年現時点では電子カルテの導入は義務化されてはいませんが、将来的には全ての医療機関で導入していかなければならない流れとなっています。
そのため、現在電子カルテを導入していない医療機関においても自分事と捉えて、早めに情報収集及びデジタル化へ向けた環境整備をしておく必要があります。
電子カルテの普及目標
日本では、2026年度までに電子カルテの普及率を80%に、2030年度までに100%にすることを目指しています。
今の日本では、導入費用などの問題から小規模な診療所やクリニックで電子カルテの普及が進んでいない事、それぞれの電子カルテの規格が異なることで医療機関・薬局同士での情報のやり取りがスムーズに行えず、電子カルテの情報共有機能をうまく活用できていない事が大きな課題となっています。
この課題を解決すべく、電子カルテ未導入の一般診療所や非DPC病院向けに、国際標準規格に基づいた電子カルテシステム(標準型電子カルテ)を安価で提供し、「医療情報の標準化」を図る施策が進められています。
▼標準型電子カルテに求める要素 ※政府より以下の4つが提案されています。
1)閲覧権限の設定
誰が自分の電子カルテを閲覧したか患者自身が確認できる。また、閲覧者を設定できる機能を実装すること。
2)診療支援機能の実装
医療スタッフの作業を軽減するため、診療を支援する機能(例:自動化された処方提案など)を実装すること。
3)検査会社との情報連携
検査会社への発注や結果の受け取りなど、検査会社とのデータのやり取り方法を標準化し、スムーズな連携を実現すること。
4)介護事業所との情報共有
医師が許可した場合、介護事業所などにも必要な電子カルテ情報を共有できる仕組みを整えること。
《厚生労働省の取り組み》
標準型電子カルテを普及させるべく、厚生労働省は電子カルテの開発支援策を講じています。
提言では、国際標準規格「HL7 FHIR」に基づいた電子カルテシステムの開発において、政府から開発補助金を提供するとしています。
また、現在「無床診療所向けの標準型電子カルテα版」の開発がデジタル庁で進められており、2025年春頃からは一部のクリニックにおいてモデル事業を開始する予定となっています。そこで得られた知見をもとにα版の改修を行い、より多くのクリニックへの普及を目指す計画が進行中です。
【参考】厚生労働省|第2回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料|令和6年3月7日
【参考】厚生労働省|医療分野の情報化の現状
電子カルテの導入手順
ここからは電子カルテの導入手順について、5つのステップに分けて順に解説します。
電子カルテの導入は、単にシステムを購入して導入するだけではなく、事前の準備やスタッフへのサポートなどが必要です。
現状分析とニーズ把握
電子カルテを導入する前に、運用状況や課題を把握することが重要です。
最初のステップでは、現在の紙カルテシステムや今までの情報管理方法を評価し、電子カルテの導入に向けた課題を明確にします。
《チェック項目》
・業務フローの分析
現在のカルテの作成・管理方法、診療の流れを確認する。
・問題点の特定
紙のカルテでは検索が遅い、情報共有が難しい。(保管スペースの問題、セキュリティ面の不安など)
・ニーズの把握
スタッフの意見を聞いて、どのような機能が必要か(医師の診療支援機能、薬歴管理、患者への説明支援機能など)を洗い出す。
・導入目的の明確化
業務効率化、医療の質向上、患者安全の向上など、導入目的をスタッフ全員で共有する。
システム選定のポイント
次はどの電子カルテシステムを導入するかを検討します。
《チェックすべきポイント》
・ソフトウェアが診療科やニーズに合っているか
・画面の見やすさ、操作感
・セキュリティ対策に問題はないか
・トラブル発生時(システムの不具合や停電など)に対応をしてもらえるか など
複数の電子カルテをトライアル利用し、実際の現場で使いやすいかどうかを確認したうえで、最も施設に適したシステムを選定するようにしましょう。
導入準備とトレーニング
システムが決まったら電子カルテの導入準備を行います。
《主な準備内容》
・ハードウェアの整備
電子カルテを利用するにはパソコン、サーバー、ネットワーク環境などが必要です。
・データ移行計画
現在使用している紙カルテや他の電子システムから、必要なデータを新システムに移行するための作業手順を計画します。
・スタッフの教育・トレーニング
医師、看護師、事務スタッフは新システムの操作方法や業務フローについて確認・トレーニングを実施します。
新しいシステムに慣れるまでには時間がかかるものです。
電子カルテの使い方や運用ルールをスタッフ全員が理解できるように予めマニュアルにまとめておき、必要なときにすぐ手順を確認できるように工夫しましょう。
試験運用
実際に新システムを運用する前に、一部の診療科や患者群に限定したうえでシステムを試験的に運用し、正しく機能するかどうか、問題点が無いかなどを確認しましょう。
《主なチェック項目》
・カルテ作成、情報検索、レセプト作成などがスムーズに行えるか。
・システムの動作速度や負荷耐性に問題は無いか。
・データ漏洩、不正アクセスなどセキュリティ面に問題は無いか。 など
本番稼働
準備が整ったら、いよいよ電子カルテの運用開始です。
利用していく中で、初期の段階では想定していなかった問題やトラブルが発生することがあります。
システムに不具合などが生じた場合は、電子カルテシステムのヘルプデスクやサポート窓口と連携して問題を解決できるように備えておきましょう。
また、運用開始後も定期的にシステムの使用状況や効果を評価し、必要に応じて改善策を講じていくことが求められます。
例)使いにくい部分の改善、新しい機能の追加など。
電子カルテ導入のメリット・デメリット
そもそも電子カルテの導入にはどのようなメリットとデメリットがあるのか?まとめました。
《メリット》
電子カルテを導入することでデータの照会や共有が容易になり、業務効率化や診療精度の向上が期待できます。
・業務の効率アップ
・迅速かつ正確に患者情報を共有できる
・紙類の保管スペースを削減できる
・ミス減少、安全性の向上に繋がる
《デメリット》
一方で下記のようなデメリットもあり、小規模な診療所やクリニックでの導入が進んでいないのは、これらのデメリットが原因と考えられます。
・導入コストが必要
・システムに慣れるまで時間を要する
・停電時に利用できない
・セキュリティ対策が必要
電子カルテを導入するメリット・デメリットを詳しく解説|ウェブカルテ
補助金活用方法
ここからは、電子カルテの導入時に使える補助金についてご紹介します。
費用の問題で導入に踏み出せずにいる医療機関の方々、必見です!
補助金の種類
2024年現在、電子カルテの導入時に活用できる補助金は3つあります。
1.医療提供体制設備整備交付金
電子カルテ情報共有サービスに接続するために必要なシステムの導入を行うための補助金です。
この基金は主に以下2つの活動を支援することを目的としています。
・医療機関や薬局でのオンライン資格確認システムの導入支援
・医療機関における電子カルテシステムの標準化及び導入支援
対象となる費用は大きく2種類あり、電子カルテシステムの導入に必要な費用及び、健診システムと電子カルテシステムの連携費用の一部補助を受けられます。
▼申請方法等の詳細については、下記の公式HPを参考にしてください。
【参考】医療機関等向け総合ポータルサイト|電子カルテ情報共有サービスの導入に係る補助金
2.IT導入補助金
中小企業・小規模事業者等の業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。
電子カルテをはじめ、相談対応等のサポート費用やクラウドサービス利用料等も補助対象に含まれ、導入費用の1/2から4/5以内、最大450万円までが補助されます。
IT導入補助金の申請枠は5つあり、それぞれ目的や対象経費、補助率などが異なります。
・通常枠
・インボイス対応類型(インボイス枠)
・電子取引類型(インボイス枠)
・セキュリティ対策推進枠
・複数社連携IT導入枠
▼申請方法等の詳細については、下記の公式HPを参考にしてください。
【参考】サービス等生産性向上IT導入支援事業|IT導入補助金2024
3.医療情報化支援基金
医療分野におけるICTの導入・活用を推進するために設けられた補助金制度です。
電子カルテ、レセプトコンピュータ、医療機器のネットワーク連携など、医療情報化に関する設備やシステムの導入費用に対する補助が行われています。
▼申請方法等の詳細については、下記の公式HPを参考にしてください。
【参考】医療情報化支援基金等|社会保険診療報酬支払基金
成功事例と利用時の注意点
電子カルテを業務に取り入れることで、患者の安全に配慮した医療サービスの提供や治療の質の向上、作業効率化が可能となります。
情報共有サービスに連携するためには原則として標準規格「HL7 FHIR」に対応した電子カルテを使用する必要があるため、新規導入の際はその点を必ずチェックするようにしましょう。
現時点で標準規格外の電子カルテを導入している医療機関は、将来的に規格変更や改修が求められる可能性があるため、早めに準備を進めることが重要です。
まとめ
電子カルテの導入は2024年11月時点では義務化されていません。
しかし、政府による医療のデジタル化推進策「医療DX令和ビジョン2030」において、2030年度までにほぼ全ての医療機関への電子カルテ導入を目指す取り組みが進行中です。
様々な分野でDX化が進む中、医療分野においても新たな改革が求められており、電子カルテの導入はその重要なステップのひとつと言えます。
補助金も使える今このタイミングで、電子カルテの導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか?